ヴィチェンツァ Vicenza
ヴィチェンツァ (Vicenza)は、ヴェネト州ヴィチェンツァ県の県都。
ルネサンス期の建築家アンドレーア・パッラーディオが手がけた美しい町並みで知られ、「パッラーディオの街」と称される。その市街は、ユネスコの世界遺産「ヴィチェンツァ市街とヴェネト地方のパッラーディオのヴィッラ」の一部として登録された。
【アクセス】
ミラノからヴェネツィア行きの特急で約2時間、ヴェローナ(Verona)からローカル線で1時間弱、ヴェネツィア(Venezia)からは1時間半ほどで着く、小さな街です。
駅は街の南端にありますので、街の中心までは少々歩くことになります。バスもありますが、街の中心には乗り入れていません。
駅前からローマ大通り(Viale Roma)を北上して行きますが、両側は広いきれいな公園です。ガスペリ広場 (Piazzale de Gasperi)から城門(Torrione di Porta Castello)をくぐるとカステッリョ広場 (Piazza del Castello)に入ります。
ここから街の中心の大通りであるパッラーディオ大通り(Corso Andrea Palladio)が始まります。街中は車が入らない歩行者専用になっており、ゆっくり散策ができる、上品で清潔な落ち着いた街です。
【パッラーディオの街】
この街はパッラーディオ(Andrea Palladio=正式名はAndrea di Pietro della Gondola)の街と呼ばれるほど、ルネサンス時代の大建築家パッラーディオが残した多くの建築物を見ることができます。パッラーディオ様式はイギリスやフランスなど欧州各地で採用されただけでなく、アメリカ合衆国のホワイトハウスにまで影響を及ぼしており、また近代日本の建築にも大きな影響を与えています。
街にはゴティック様式やルネサンス様式の聖堂の他、ロマネスク様式やロココ様式の建物が現在も使用されている状態で残っています。建築を志す方、建築にご興味をお持ちの方は訪問することをお勧めします。
街の中心である、シニョーリ広場 (Piazza dei Signori)には、二本の高い円柱があり、その上にはキリスト像とこの街がヴェネツィアの支配下にあったことを示す有翼のライオン像が見えます。
このシニョーリ広場に面して、ヴェネツィア共和国総督官邸 (Loggia del Capitaniato)、ラッジョーネ宮(Pallazo della Rogione)があり、他にキエリカーティ宮絵画館 (Pinacoteca di Palazzo Chiericati)、ティエーネ宮(Palazzo Thiene)、スキーオ宮(Palazzo da Schio)、ブレガンツェ宮(Palazzo Porto Breganze)、バルバラン宮(Palazzo Barbaran da Porto)等などパッラーディオに関連した建物が多く点在しています。
しかし、何と言っても一番注目すべき建物は、街の北東にあるオリンピコ劇場 (Teatro Olimpico)でしょう。街のもう一つの中心的広場であるマッテオッティ広場 (Piazza Matteotti)には駅からバスなど交通機関で行けますが、そこにあるキエリカーティ宮絵画館からすぐのところにあります。
1583年まで27年間かけてパッラーディオ親子により建設された小さな劇場は、古代ローマの石造りの野外円形劇場を屋内に実現させています。半円形の観客席から見下ろす舞台には、古代ギリシャの街並みを再現したような風景が立体的に続きますが、実は立体彫刻で、遠近法を使って眼の錯覚を利用した模型なのです。建物の外観だけでなく、劇場の中に入ることをお勧めします。
宿は街中には少なく、大きなホテルもありませんので、早めの予約が必要です。
1. Duomo 大聖堂 (Santa Maria Annunciata)
カステッリョ広場(Piazza del Castello)の南端にあるポルト・ブレガンツェ宮(Palazzo Porto Breganze)の前のコントラ・ヴェスコヴァド通り(Contrà Vescovado)を東に進むとドゥオーモ広場(Piazza del Duomo)に出ます。司教館の先にドゥオーモが見えてきます。
1482年から建設が始まり、完成したのは1560年代になってでした。ドームはパッラーディオの設計と言われています。正面は白大理石製でバロック様式ですが、聖堂の大部分は第二次世界大戦で破壊され、戦後再建されました。
中は単廊式で、両脇に礼拝堂が並びますが、戦後再建された簡素な造りです。
左側の礼拝堂の一つにはキリストの磔刑像があり、その前に聖骸布が掲げられています。キリストの遺体全身を包んだとされる一枚の長い布で、キリストの顔と思われる影を見ることができます。
聖遺物としての聖骸布は、トリノの聖骸布 (Shroud of Turin)が唯一現存するとされていますが、ここの聖骸布も同様に、亜麻布で生成りに近い象牙色の布の上に、痩せた男性と思われる全身像が転写されているように見えます。
2. San Gaetano 聖ガエターノ聖堂
パッラーディオ大通り(Corso Andrea Palladio)に面して北側に建つネオ・クラシック様式の白亜の聖堂です。
1721年から1730年に、16世紀の聖人、ヴィチェンツア(San Vicenza)に奉献して建設されました。第二次世界大戦で破壊され、戦後復興しています。
正面の入口の門扉は青銅でできており、両脇にある入口を太い円柱が挟んでいます。
屋根の頂上の十字架の脇に聖ピエトロと聖パオロの立像があり、その下の壁龕に聖ガエターノの像が見られます。
聖堂内は三廊式です。
コリント式の太い円柱が支える半円形の穹窿が眼を引きます。
3. San Lorenzo 聖ロレンツォ聖堂
パッラーディオ大通り(Corso Andrea Palladio)からフォガッツァーロ通り(Corso Antonio Fogazzaro)に右折して暫らく行くと、左側に広い聖ロレンツオ広場(Piazza San Lorenzo)があります。大きな聖堂ですが、広場から見渡すことができます。
地元では聖フランチェスコ聖堂として知られています。
13世紀後半から14世紀にかけて建設され、大きな中央入口はゴティック様式で、ティンパヌムには聖母子像を中央に、聖フランチェスコと聖クレアの浮彫が見られ、その下の楣石にはキリストを中心に聖人の浮彫が並びます。
両脇台座の上には円柱を支えるライオン像がありますが、このライオンはお互いが向き合う形の横向きで、かつ4本の足で立つと言う特殊な形態を示しています。
正面の太い片蓋柱が目立ちますが、その間に石棺が各二個ずつ安置されているのも特異です。
聖堂の中は天井の高い三廊式ですが、フレスコ画等は破壊されており、注目するような絵画はありません。
アプシスもキリストの磔刑像の後ろから三本の高いガラス窓を通して明るい光が差し込み、厳かと言うよりは開かれた聖堂という印象を受けます。
4. Santa Corona 聖コロナ聖堂
パッラーディオ大通り(Corso Andrea Palladio)から、つま先上がりの坂になっているコロナ通り(Contrà Santa Corona)に入ると直ぐ右側に見えてきます。
ゴティック様式のドミニコ派の聖堂で、フランス王ルイ9世から寄贈された、キリストが磔刑に遭った時に被せられていた荊の冠の一部を収める目的で、1261年に建設が初められました。完成したのは15世紀に入ってからでした。
ジョゼッペ礼拝堂(Cappella Giuseppe)には16世紀のパオロ(Paolo Veronese)作の「3人のマギの礼拝」や、両脇の見事に彫刻された柱のあるガルッツアドーリ祭壇 (Altare Garzadori)には同じく16世紀初頭のベリーニ(Giovanni Bellini)作の「キリストの洗礼(Battesimo di Cristo)」が見られます。
ポルト礼拝堂(Cappella Porto)にはルイージ・ダ・ポルト(Luigi da Porto)の墓があります。ルイージが書いた小説「ロメオとジュリエット」を下地として、シェイクスピアが劇に仕立て上げたのですが、ジュリエットの家がヴェローナにあることで、今やヴェローナがロメオとジュリエットの本家のようになっています。
なお、ルイージの生家はパッラーディオ大通りにあります。
5. Santa Maria in Foro (dei Servi) サンタマリア・イン・フォーロ聖堂
街の中心にあるシニョーリ広場(Piazza dei Signori)の東端の一段下がった所にある、ビアーデ広場(Piazza delle Biade)に面しています。
14世紀にはあった聖堂の跡に、1407年から1435年まで掛けて、聖母マリアの使僕会が中心となり現在の聖堂が建設されました。
この聖母マリアの使僕会は1223年にフィレンツェで結成された修道会で、13世紀から14世紀にかけて、主としてイタリア中部に於いて聖母マリア崇敬を推進する活動を積極的に展開して行った修道会です。
この聖堂の建設には、パッラーディオが若い時に働いていた工房が関与していたと見なされています。
15世に正面入り口がカルヴィ(Calvi)等により改修され、2人の聖人とその上に4人の聖人、屋根の上には聖母マリアを中心に2人の聖人の合計8人の聖人の立像が見られます。
聖堂内は三廊式ですが、小さな聖堂で、モンターニャ(Benedetto Montagna)作の「聖母戴冠」やマガンツア(Alessandro Maganza)作「受胎告知」等の絵が飾られています。
アプシスにはキリストの磔刑像があるだけの清楚な聖堂です。
6. Santo Stefano 聖ステファノ聖堂
パッラーディオ大通り(Corso Andrea Palladio)からサン・ガエタノ・ティエーネ通り(Contrà, Via S. Gaetano Thiene)に右折し、ティエーネ宮(Palazzo Thiene)を越えると、右手に聖堂の正面があります。
または、聖コロナ聖堂 (Santa Corona)のあるコロナ通り(Contrà Santa Corona)からステファノ通り(Contrà Santo Stefano)に左折して、西に進むと聖堂の脇に出ます。
最初の聖堂は12世紀にロマネスク様式で建設されました。正面は16世紀後半になって改築され、入り口の脇には2人の聖人と屋根に3人の聖人立像が見られます。
これらは、カセッティ(Giacomo Cassetti)の作と言われています。
現在の建物は17世紀から18世紀初めにバロック様式で建設されています。また、ドームは19世紀なってから追加されました。
内陣はドミニコ(Dominico Angel)により造られ、ティントレット(Domenico Tintoretto)作「聖パウロ」やマガンツア(Alessandro Maganza)作「キリストの洗礼」等の絵が飾られています。
白を基調とした清楚な近代的な聖堂です。