クレモナ Cremona
【アクセス】
ミラノから電車を利用すると2時間弱で着きます。駅は街の北端にあります。
街の中心までは1km程ありますが、バス等の公共交通機関は街中には運航していません。小さな落ち着いた、洗練された街で、街並みもきれいで散策するのに良い街です。
【歴史】
街の建設は紀元3世紀のローマ帝国時代まで遡ることができます。11世紀になると神聖ローマ帝国皇帝のバルバロッサ (Barbarossa)やフェデリコ2世(Federico II)の下で、ファスチアン織りで財を成し、街は急速に発展しました。
その後1411年10月25日に、クレモナ公のマリア・ヴィスコンティ(Bianca Maria Visconti)がミラノ公のフランチェスコ・スフォルツァ(Francesco Sforza)に嫁ぐとき、クレモナの街は花嫁の結婚の持参金とされ、ルネサンスの華やかな影響を受けることとなります。
16世紀にスフォルツア家が絶えるとクレモナはスペインの支配下となりますが、1707年にオーストリアの女帝、マリア・テレジア(Maria Teresa)の下で現在に及ぶ繁栄を取り戻したのです。
【街を歩く】
この小さな街には驚くほど多くの聖堂があります。中には完全に廃墟となっているヴィンチェンツォ(San Vincenzo)聖堂のような例もありますが、地図によると20余の聖堂が挙げられています。
その一つ一つの聖堂を訪れているうちに、街の中心にある大聖堂 (Duomo)に到着します。街の大聖堂は街の規模と比べても異常とも言える程の大きさです。巨大な大聖堂と、隣接する見上げるばかりの鐘楼とを一枚の写真に収めるのは困難です。
大聖堂の前には、コムーネ広場(Piazza del Comune)があり、午前中は花屋さんから日用雑貨、衣料、野菜、魚、チーズを扱う店などの出店でにぎわいを見せています。広場は多くの人で埋め尽くされますが、この広場の端まで行っても大聖堂を十分に見渡すことはできません。
【宿】街中に多くの宿がありますので、宿の苦労はしなくて済みます。
またこの街はヴァイオリンの代名詞にもなっている、ストラディヴァリの生まれた街で、上の写真は市立博物館 (Museo Civico "Ala Ponzone")内の楽器展示館の案内です。古くからの弦楽器が展示されています。
従来はストラディヴァリアーノ博物館 (Museo Stradivariano)が隣接した建物内にありましたが、これらのコレクションを一堂に集めたヴァイオリン博物館 (Museo di Violino)が2013年に作られました。
Museo del Violino di Cremona (YouTube動画:4分10秒)
1. Duomo di Cremona クレモナ大聖堂 (Cattedrale di Santa Maria Assunta)
街の中心のコムーネ広場(Piazza del Comune)にあり、1107年に建設が始められましたが、10年後の1117年の大地震で崩壊し、再建されて一応1190年に完成を見ました。
その後も建設は続けられ、正面を多彩色の大理石で覆い、北と南の入口が完成したのは15世紀になってからです。
正面には大きな薔薇窓があり、その上にカンピオーネ派が作成した4人の大預言者の立像があります。
フリーズには13世紀初めにアンテラーミ派による十二カ月を表す浮彫があり、二頭のライオンが支える柱廊の上には両脇に聖オモボノ(Sant'Omobono)と聖イメリオ(Sant'Imerio)を従えた聖母子像が14世紀になってロマーノ(Marco Romano)によって制作されています。
正面の柱には左側にエレミア(Jeremiah)とイザイア(Isaiah)の、右側にはダニエル(Daniel)とエゼキエル(Ezekiel)の4人の預言者の浮彫があります。
内部は三廊式の広い大聖堂で、多くのフレスコ画で飾られています。
両側にある説教壇もまた16世紀の制作です。
側廊には黄金に輝く磔刑像があり、十字架は8角形の祠に支えられ、キリストの両脇には聖母マリアと聖ヨハネの立像があります。
なお、クレモナの街の守護聖人の聖オモボノは地下聖堂に埋葬されています。
正面の入口を入って見返るとキリストの磔刑の場面を描いた大きなフレスコ画があります。
身廊の両側には16世紀に数多くの画家により描かれた「キリストの生涯」と「聖母マリアの生涯」の大きなフレスコ画が何枚も続いています。その他カンピ(Campi)やマロッソ(Malosso)などのクレモネ派によるフレスコ画を見ることができます。
大聖堂の脇には13世紀に建設された、トラッツオ (Torrazzo)と呼ばれる鐘楼が聳え立ち、その高さは110mでイタリア第一の高さです。500段の階段を登ると頂上に到着します。
上部には二重、三重のマリオンで飾られた窓がバランス良く並んでいます。15世紀になって大聖堂に直結されましたが、塔がいつ、何の目的で造られたかは正確には分かっていません。
2. Sant'Agata 聖アガタ聖堂
ガリバルディ(Corso Garibaldi)大通りに面して、イオニア式の大理石の円柱が6本立ち、屋根の頂上にはキリスト像が、左右には聖人像が立つギリシャ神殿の様な大きな聖堂です。
その下の切り妻の破風には、聖アガタの殉教の場面が浮彫で描かれています。
1077年にロマネスク様式で建設されましたが、19世紀になって、正面は現代のネオ・クラシック様式に改修されています。
外観から受ける印象とは打って変わって、内部は落ち着いた三廊式の聖堂です。
アプシスにはキリストの磔刑像の後ろに聖アガタの裁判の場面が描かれています。
またドームには中心に大勢の天使が輪舞し、その外側にもまた輪舞する大勢の天使が描かれています。
側廊には黄金に輝く聖アガタの受難を描いた扉絵が飾られています。
なお、13世紀に描かれたと見られる多くの絵画が飾られていますが、その作者の名前は判明していません。
3. Sant'Agostino 聖アゴスティノ聖堂
聖堂正面の前には同名の広場(Piazza S. Agostino)があり、その西側には聖オモボノ聖堂 (Sant'Omobono)があります。
1339年に建設が始まり、1345年(一説に1349年)に完成しています。当初は修道院でした。14世紀のうちに右側に礼拝堂が付け加えられました。高くて遠くからもその存在が分かる鐘楼は、遅れて1461年になって建設されました。
16世紀半ばに大改修されていますが、正面はロンバルド・ゴティック様式のままで、中央に薔薇窓があり、その脇の2本の片蓋柱で3面に分けられています。両脇に縦二重に丸い窓が並んでいます。
聖堂内は三廊式で、白大理石の太い列柱が眼を引き、その柱の上部には聖人の立像が掲げられています。
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一段高くなった内陣の両脇は大きな絵画で飾られています。
キリストの磔刑像の奥のアプシスには聖三位一体画像が掲げられています。
側壁面は15世紀末のペルジーノ (Perugino)作の聖母子像の他、多くのフレスコ画で飾られています。
3番目にあるカヴァルカーボ(Cavalcabo)礼拝堂ではベンボー(Bonifacio Bembo)作のフレスコ画を見ることができます。
4. Battistero 洗礼堂
ドゥオーモのあるコムーネ広場(Piazza del Comune)にあります。1167年建立のレンガ造りで八角形をしています。直径は22.5mで、高さは34mあります。
当初入口は3か所ありましたが、16世紀にダッタッロ (Gabriele Dattaro)などにより改修され、現在ではコムーネ広場に面した北向きの一か所となっています。
入口には2頭のライオンが柱廊の円柱を支えています。
洗礼堂の内部は三層で、上層の二壁面には二連式のアーチが三つ並び、その中央の窓からと天頂から光が降り注いでいます。
土台から天井まで赤いレンガで造られており、周囲を見上げても絵画が無いだけに荘厳な印象を受けます。
中央には1531年にトロッティ(Lorenzo Trotti)により作成された八角形の赤大理石の洗礼盤があり、上には金箔のキリスト像が載っています。
正面の祭壇にはクレモナ派の描いたフレスコ画の前に「磔刑のキリスト像」があり、
左側の祭壇には17世紀のジャコモ(Giacomo Bertesi)作の「嘆きの聖母」があり、
右の祭壇には16世紀に奉納された聖ビアージョ(St.Biagio)の像を見ることができます。
パルマ(Parma)の洗礼堂と比較してみると、規模がやや小さめと言う他に、中に絵画や彫刻がほとんど無いことが一番の相違点でしょう。
5. San Lorenzo 聖ロレンツォ聖堂
ドゥオーモのあるコムーネ広場(Piazza del Comune)の北側から街の東端にある聖ミケーレ聖堂 (San Michele Vetere)に向かってジェロラモ通り (Via Gerolamo da Cremona)を行くと、右手にあります。
共同墓地跡に、10世紀になってロマネスク様式で建設された聖堂です。現在は考古学博物館になっており、聖堂の機能は果たしていません。
6. San Luca 聖ルカ聖堂
駅を出て西に向かい、ガリバルディ大通り(Corso Garibaldi)に入ってすぐにあります。
1165年に建設が始められ、15世紀になって完成しています。
ロマネスク様式の聖堂で正面には2頭のライオンが円柱を支える柱廊があります。
その上には小さいながらも薔薇窓があり、両脇の片蓋柱で支えられています。
ティンパヌムは傷みが激しくフレスコ画も分かりませんが、当時の趣を残すのはこの正面だけです。
正面左側に建つ三階建てで、八角形の塔(Tempietto del Cristo Risorto)は、15世紀にクレモナでペストが流行した際に、その病の終焉の誓願が成就したことに感謝して、1503年にレーラ(Bernardino de Lera)により建設されたものです。
内部は三廊式の聖堂ですが、19世紀になって内装を修復したために簡素なものとなっており、特に注目するような絵画もありません。
7. Santa Lucia 聖ルチア聖堂
街の西端に位置し、聖堂の正面には同名の広場(Piazza Santa Lucia)があります。
小さな聖堂で前の広場から、聖堂全体を見ることができます。12世紀初旬に建設されたロマネスク様式の聖堂です。
正面上部には当初は薔薇窓があったと思われます。後にルネサンス様式に改修されており、両脇に二本並んだ片蓋柱が見られるのが特徴です。
聖堂は三廊式で、フレスコ画の一部が残されていますが、祭壇にはマサロッチ(Angero Massarotti)作の「聖ルチアの殉教」が描かれている他、多くの15世紀に描かれたフレスコ画が飾られています。
8. San Michele Vetere 聖ミケーレ聖堂
街の東端にあり、聖堂前には同名の広場(Piazza San Michele)があり、聖堂を見渡すことができます。
7世紀から8世紀に掛けてロンバルディア様式で建設された街で一番古い聖堂です。
12世紀に旧来の聖堂跡にロマネスク様式で再建され現在に至っています。地下聖堂に一部当初の遺跡を見ることができます。
中にはベンボー(Benedetto Bembo)作のフレスコ画や16世紀の多面式祭壇画があります。
正面と鐘楼は19世紀になって改装されています。
9. Sant'Omobono 聖オモボノ聖堂
街の西にありますが、やや分かりにくい所にあります。聖アゴスティノ聖堂 (Sant'Agostino)の奥 (西側)にありますので、聖アゴスティノ聖堂の高い鐘楼を目当てにするのが良いでしょう。
正面の入り口脇の壁龕には聖人の立像があります。
クレモナの街の守護聖人である聖オモボノ(1193年11月13日死去)を祀った聖堂で、地元では有名な聖堂です。聖オモボノ自身が商人の出だったこともあり、織物職人や仕立屋の守護聖人とされています。
ルネサンス様式でしたが、18世紀半ばには、ボロッニ(G.A. Borroni)によりバロック様式に再装飾されています。
10. San Pietro al Po 聖ピエトロ聖堂
街の南西の端にあります。エマニュエル2世大通り(Corso Vittorio Emanuele II)を西に向かい、ポンキエッリ劇場(Teatro Ponchielli)の角でガエタノ・チェザーリ通り(Via Gaetano Cesari)に左折して150mほど先の左手にあります。
聖堂の前には同名の広場 (Piazza San Pietro)があるので、左右対称の端正な正面全体を見渡すことができます。聖ルチア聖堂 (Santa Lucia)より一回り大きな聖堂ですが、正面の造りは良く似ています。中央に二本の片蓋柱が並び、脇にも二本の片蓋柱が見られます。
1064年にロマネスク様式で建設されたベネディクト派の修道院でした。16世紀にダッタッロ (Francesco Dattaro)が正面を改修したことでルネサンス様式の端正な趣となっています。
聖堂内部は三廊式です。内装はロマネスク様式からマニエリズム様式で改装されていったために非常にきらびやかで外観とは非常に異なった印象を与えています。
天井や側壁面は多くの絵画で飾られています。
翼廊には16世紀にカンピ(Antonio Campi)により制作されたフレスコ画を見ることができます。
11. San Trinita 聖三位聖堂
大聖堂の裏手から街の東に向かう9月20日通り(Corso XX Settembre)の突き当たりに見えています。
手前左側に聖ロレンツオ聖堂 (San Lorenzo)があり、左手奥には聖ミケーレ聖堂 (San Michele Vetere)があります。
14世紀に建設された単廊式の小さな聖堂で、目を引くだけの華やかさはありません。それだけに方形の高い鐘楼がひときわ目立ちます。
なお、ミラノとクレモナとの中間にクレマ(Crema)と言う、クレモナの街と似た名前の街がありますが、その街にある聖三位聖堂はバロック様式の華やかな造りであり、クレモナの聖三位聖堂とは全く異なります。
クレマ(Crema)の聖三位聖堂
「Turismo Crema」の「Santissima Trinità」に外観・内部写真が掲載されています。